第107話 猿倉城あとにのこるとんち話 富山市猿倉
むかしむかしのはなしや。
となりの国のとのさまが、たくさんの家来をつれて猿倉の城をせめてきたと。
とのさまは「こんな小さな城はひょうろうぜめにしたがよかろう。みなのもの、まわりをとりかこんでひょうろうはこびをとりおさえ」と命令したと。
しかし、いくにちたってもいくにちたっても、小さな城はこうさんするけはいがなかったと。
それは、この城はいっぽうはだんがいぜっぺきで、みおろすと、底には大きくて深い川がながれていたし、川のよこては、高い高い山にかこまれていたと。高い山のつづきには、低い山がいくつもかさなっていて、ひとびとは道にまよって、なかなか高い山にのぼれなかったと。
ところがこの山のところどころにほらあながあって、お城にいく秘密のつうろが、いくつもあったと。
敵がせめてきても、この秘密の通路から、水やお米をはこんでいたと。
しびれをきらしてまっていたとのさまや家来たちは、じっと城をみていると、お城のてっぺんから「ゴー。ゴー」とてっぽう水がながれだしたと。家来たちは、「大水だ。大水だ」といって、いっせいにたいさんしたと。とのさまも、「あんなに水がほうふにあるのなら、ひょうろうぜめはできないぞ」といって、となりのお城にかえったと。
この小さなお城には、もうひょうろうがわずかしかのこっていなかったと。みんなでいい知恵はないものかと相談したと。そしたら、めしたきのばあさまが「みずいろの長い長いきれをするするとたらして、その上からのこった米をながしたらどうかの」
みんなはさんせいしたと。
みずいろのきれは、おりからの風にふかれていかにも滝のように見えたと。
また、ながされたお米は、「ゴー。ゴー 」と、大きくひびき、まるで、てっぽう水のようだったと。
話 横内友次郎 再話 吉田律子
「たずねあるいた民話 大沢野」