第11話 手品師の関所破り  富山市猪谷



 昔、飛騨と越中の国境に猪谷の関所があった。すぐそばを流れる神通川には橋がなかったので、川の向こうへ行く時は、籠の渡しに乗って行った。
 ある時、飛騨から大勢の人が籠の渡しに乗り、神通川を渡ってこの関所へ集まって来た。その中に親子三人の手品師がいた。
 関所の役人は、三人の様子をじろじろと見て、「そこへ来た親子三人、お前らは手品師でないか、こっちへ来い」と呼んだ。
 役人は、「人の目をくらまして、金をむさぼり取るような手品師なら、この関所は通すわけにはいかん」
 手品師は、「何というお役人さま、私らは他の手品師のような、お客さまの目をごまかすような、そんなことはいたしません。ただありのままの芸をいたします」
 役人は「そりゃ、どんなことをするのじゃ、一つ見せてもらうか」
 手品師は、「それでは・・・一升入りほどの鈴を一本かしてください。私ども親子三人が、その中に入ってごらんにいれます・・・」
 役人は、家来に木魚より大きい鈴を用意させて、手品をする台まで並べた。
 いよいよ手品師は、「これからお見せする手品は、大変難しいもので、皆さん十歩ほど下がってくだされ・・・」
そう言うと、黒い風呂敷を上からかぶせて種もしかけもないという話をして、風呂敷を鈴の上へかぶせた。
 そして、まずは子供からと言って、子供をその鈴の中へおしこみ、次に母親を入れた。そして、最後に自分が鈴の中へ入って姿を消してしまった。
 役人は、互いに顔を見合わせて、これは不思議な手品だと言っているが、どれだけたっても、手品師はその中から出て来ない。
 役人は、鈴の中をのぞくだけでなく、しまいには、鈴の中へ火ばしを入れたり、鈴をこわしたりするが、影も形もない。
 不思議なこともあるものと、話し合いをしておるところへ、あきんど(商人)が入って来た。
 役人は、「これこれ、もしかすると、お前は、かくかくの男と母親と子供の三人の姿を見なかったかい」
 あきんどは、「そうそう、確か三人づれの親子なら、楡原の村の近くで会うたことい」
 役人は、「あー手品師にいっぱい食わされた」
 役人は皆あきれた顔をしておったという。
 これが、手品師の関所破りとして伝えられているということだと。
           



           民話出典「細入村史」