第18話     カッパに教えられた妙薬      富山市伏木

 昔から、伏木の 山下家(屋号はアイス屋)に 伝わる お話です。千五百年も 続いた 旧家ですが、いつのころからか、アイス屋と 呼ばれるように なったそうです。

 昔、アイス屋に、お爺と お婆と一頭の馬が 住んでいました。お爺が、朝早く起き、馬の草かりに、深い山まで 出かけていきました。

 一荷の草を 背おって 帰り、「どっこいしょ」と、草をおろし、いっぷくして、草をやろうと、馬小屋をのぞいてびっくりぎょうてん。カッパが 馬に つなをかけ、外に 引き出そうと しているのです。お爺は おこり、カッパを 引き出し、つなをかけ、土間の柱にしばりつけて おきました。

 やがて、カッパは、だんだん弱り、ぐったりして しまいました。お婆が、ごはんの用意に、土間に下りたところ、カッパは、「キュウ キュウ」と、悲しそうな 泣き声を あげて、泣いていました。お婆が、カッパに、「お前が 悪いことをした。馬なんか引き出そうと するからや」と、手に 持っていた ぬれたシャモジで、頭の皿を たたいたところ、皿に シャモジの水が 入ったためか、カッパは、いっぺんに 元気になり、つなを 引き切って、いちもくさんに、にげていきました。
 
 何日か 過ぎてから、カッパは、お婆の所に 現れて、「この間は、いのちを 助けてくれて ありがとうございました」と、ペコンと おじぎをして、帰って 行きました。その後ろすがたは、山ぶしに、にていたと 伝えられています。
 


 ある日、お婆が、家の仕事で くたびれて、ねむりこんでいました。その時、ゆめまくらに、「私は 飛騨から 流れてきた 仏ぞうだが、谷川に いるから、助けに来てほしい」と呼ぶ声に、ハッと われにかえり、谷川に 行ったところ、川岸に、木ぼりの 仏ぞうが、うかんでいるのに、おどろきました。お婆は、仏ぞうを ひろいあげ、「もったいない」と、大切に 家に 持ち帰り、おまもりしていました。
 
 ある日のこと、山ぶしすがたの 行者が 来られ、「今夜、とめてもらいたい。どこにでも よいから 休ませてほしい」と、もうされたので、お婆は、やさしい声で「どうぞ どうぞ」と、ろばたに あんないし、ごちそうを 作って、もてなしました。行者さんは、「あなたの家に 仏ぞうが あるはず。私に おきょうを となえさせてください」と言い、おきょうを となえられました。よく朝、出発ぎわに、「一夜 とめていただいた お礼に」と言って、草木を 使っての 薬の作り方を 教え、「あなたの家が、生活に こまった時には、この薬が あなた方を 助けて くれますから」と言って、立ちさられました。

 教えられた草木で 作った薬を「アイス」と言い、多くの人々に りようされました。山ぶしさんに 言われたように、家が こまった時には、「アイス」が よく 売れたそうです。

 その時の 仏ぞうは、伏木の 神明社に ごうひ されています。それから、伏木ぶらくの 人たちは、きゅうれきの 五月五日になると、朝めし前に、一荷ずつ、ヨモギ、アオキ、スイカズラなど、それぞれの 薬草をせおい、アイス屋の 薬草小屋の 前に おいたものです。そのお礼に、ショウブぶろに 入れてもらいました。

 アイス屋では、薬草を かげぼしにし、一年中 使用できるほど、作っていました。ぶらくの人たちは、アイスを ひつようとする時は、むりょうでもらって 使用したそうです。また、近ごう、近ざいの方も、アイスを もとめに 来られたそうです。

 民話出典「ふるさと下夕南部  野菊の会」