第23話 大蛇の話 富山市片掛
洞山の北側に「入道」という地名があり、村人全体の共有地であると聞いている。村から遠く、山奥だったので明治になって払い下げることになったが、誰も私有地にほしいという希望者はいなかった。当時の(村での役職などはわからないが)藤井氏の先見の明によって村全体の財産とすることを条件に申請し、払い下げを受けた。
この入道の樹木はその後順調に成長し、今では非常に大きな村の財産になっている。この入道に大蛇が住みついていた(今もいるかどうか判らないので過去形にした)。体長三m、胴の直径十cm以上という片掛では一寸見られない大きさだった。この大蛇は神の使者、または入道の守り神として、村人達は殺さないことにしていたし、大蛇も村人に危害を加えるようなことはなかった。
この大蛇の話は、遥かな昔の物語を書いているのではない。入道の村有林へは毎年下刈り(雑草やつる草などがあまり茂らないように刈り取る)に村の人達が一日がかりで出掛けて行っていた。私の兄も毎年の様に入道へ行っていて、この大蛇を見ていた。
この大蛇は蛙は勿論、野ねずみやウサギなどを食べているということで、家へ帰った兄は、「今年も大蛇は元気だった」と話をしていたのを想い出す。
(飛騨街道「片掛の宿」昔語り 『まぼろしの瀧』) 文山秀三著