25話 古い松と天狗 富山市二松
むかーし、二本松のお寺の前に、でっかい、でっかい、古い松の木があったと。木の根っこが、あっちにもこっちにも、広がっておったと。
その木の根っこがもり上がっているので、まるで小高い山の頂上に、松の木があるように見えたと。
その松の木の上に、いつからか、天狗が住みついていたといね。天狗は、人に悪さするでもなし、いつものんびりと、昼寝をしておったと。かくれみのを持っているので、天狗に気づくものは、だれ一人いなかったといね。
ある暑い朝のことだったと。お寺の住職が、お参りから帰る途中、
「暑くて、暑くて、たまらんわい。ことしの暑さは、かくべつじゃ」
と、ひとりごとを言いながら、でっかい松の木の下を通ったと。
すると、涼しい風が、吹いてきて、思わず大きな声で、
「おーい、さわやかな風が吹いて来るのー。気もちよいわいー」
と、言いながら、松の木の上を見上げたと。 そこには、でっかい、でっかい、いちょうの葉っぱと、もみじの葉っぱがまるで、プロペラのように、回りさくっとったといね。
お寺の住職は、
「あれは、きっと、天狗のしわざにちがいない」と思ったと。
それからは、どんなに暑い日でも、松の木の下だけは、涼しかったと。
ちょうど、そのころ、大きな松の木の前に、寺子屋があって、おおぜいの寺子たちが、手習い(読み、書き、ソロバン)を習っていたと。おもに、お寺の住職が教えておられたそうな。
古い大きな松の木は、多くの寺子たちの遊び場であったと。寺子たちは、手をつないで、松の太さをはかったり、松の皮をめくっては、
「これは、馬だ」「牛だ」「ねこだ」「えんころだ」と言って遊んだり、また、松ぼっくりや緑の松葉をたくさん拾ったりして、遊んだと。
やがて、笑い声がたえなかった寺子たちに、古い大きな松の木との別れがやって来たと。ある年のこと、松根油(松の根にある油)をとるため、松の木は切られてしもたがやと。
参考資料 「二松のあゆみ」 「船峅のむかしがたり」
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