第32話  はたおりの先祖 姉倉姫のお話   富山市寺家
 


 とんと昔あったとさ。
 舟倉山というところに気持ちのやさしい姉倉姫という姫がおられたと。
 ちかぢか、姫と結婚の約束をかわした男神さまがおられたがやと。
 ところが、その話を聞いた根性の悪い女神がおられて、むらむらと腹を立てて、じゃましてこませにゃと考えたがやといね。
 それからというものは、ありったけのだてこいて、男神さまの所へせっせと通い続けたと。
 そのうちに男神さまもだんだんと悪い女神が好きになって、姫のことなどすっかり忘れてしまったと。
 そんなことが姫の耳にもとうとう入ってしもうたがやと。
 姫は、友たちの山鳩にさぐらせたら、やっぱりそうだったといね。
 姫は、毎日さめざめと泣いておられたと。これを知った村の神さまたちは、ぞくぞくと集まってこられ、いよいよ戦さが始まったと。
 


 でかいと石をなげさくったので、舟倉山には石のかけらもなくなり、つべつべの泥だけが残ったそうな。
 その頃、出雲の国に大国主命という偉い神さまがおられたと。
 越中では、ものすごい戦が起きていることがわかって、早くやめさせようと、五色の旗を五本作り、舟倉山へずんずん進まれたと。
 日頃から大国主命を尊敬しておられた姉倉姫は、五色の旗を見るなり戦をやめさせられたと。
 少しおちつかれた姫は、山の上の鏡のような池に自分の姿を映されてびっくりしたと。
 まるで鬼のようだったといね。
 心のやさしい姫が泣いていると、仲よしの蝶々からとんぼからうさぎから、小川のしじみまでなぐさめてくれたといね。
 もちろん、根性の悪い女神や男神さまも、大国主命によってほろぼされたそうな。
 そのあと、大国主命の命によって、姉倉姫は、はたおりの仕事に精を出し、広く村人にすすめていかれたがやと。
 


 今でも、村の行事には、船峅音頭となって、
 「とんとからりと、はたおりなさる、姿やさしい姉倉姫の・・・」
 と、唄と踊りでにぎわっていると。
 これでよんつこもんつこさ。
 話者 悟道伊三郎
          
「船峅のむかしがたり」