第33話  とじこめられた天狗              富山市大久保



 大久保地区の法林寺の境内に、一本の大きな松の木がそびえていた。夜になると、このあたりの名物の風が吹いて、ゴウッーとうなりをあげ、バサッ、バサッと大きな枝をゆすり、今にも襲いかかろうとする構えをみせるので、人々はここをさけて通った。
 この松の大木に、いつの頃からか天狗が住みこみ、真夜中にバラバラバラッと屋根に小石を降らせたり、寝ているうちにふとんをぐるりとまわしておき、朝起きた人が変な顔をして首をかしげているのに興じたり、子どもをさらって二、三日かくしておいたり、とにかく村中が大さわぎするような事件を起こしてはおもしろがっていた。
 明治の中頃、法林寺では寺のまわりに石垣をめぐらした。
 すると、その晩、住職の枕元に天狗が現れ、「わしの住んでいる松をどうして石垣でとりかこんだのか。とじこめられてきゅうくつでたまらん」というので、「石垣をつくろうが、つくるまいが、寺の勝手だ。お前がああこういう筋のものではない。かえってこちらが家賃をもらうのがあたりまえだ。だがお前の出方ひとつで、松だけ石垣の外にでるようにしてもよい」と答えた。
 天狗はよほど困っていたとみえて、「どのようなことでもするが、一体その出方というものを教えてくれ」とさもさも弱りきった様子だった。
 住職は今だと思って起き上がり、「お前はいたずらばかりして村の人を困らせてはおもしろがっている。これからは一切いたずらはやめることだ。今後一回でも悪いことをすれば、石垣どころか、松の木を切り倒してしまうからそう思え」と声を荒げて叱った。
 天狗は、「もう決していたずらはやらぬ。後生だから石垣の外へ出してくれ」と何度も頭を下げて消え去った。住職は翌日、さっそく石垣を積みかえて、天狗の松が外に出るようにしてやった。
            
「大沢野ものがたり」