第43話 ダラな兄マの話 富山市岩稲
むかしむかし、ある所に、ダラな兄マがござったと。年頃になったので、親たちも、こんなダラの所へお嫁に来てくれる人もいないだろうし、困った事だと心配していた。
ある時、物売りの商売人が来て、この親たちの話を聞いて、「ここから五里くらい離れた村に、きりょうはよくないが、あの娘なら来てくれるだろう」と話した。それを聞いた両親は、さっそく人を立て、お嫁にもらうことに話が決まった。
初対面のあいさつも教わったとおり間違えなくすまし、お膳が出て来て、酒盛りになった。親類の人たちも来ていて、酒がまわるにつれてにぎやかになって来た。歌を唄ったり、踊ったり。そこで親類の一人が、「婿さんにも何か一つ」と云うので、兄マは立ち上がり、「小便に行って来てから」と外へ出て行った。
兄マは、小便しながら、向こうをひょいと見ると、新しい白いこもと古い黒いこもが、納屋の入口に下がっている。これを見た兄マは、座敷へもどって来た。
「さあ何か一つ」と云われて、「白いこもあり、黒いこもあり」と云うたのだが、みんなは何のことか分からないので、クスクス笑っている。
それを見ていた嫁になる娘が出で来て、「みなさん、どなたでもよろしゅうございますから、上の句をよんでくださいませ」と云った。しかし、誰もよむ人がいないので、「それでは私がよみましょう」と、
一つ木に サギとカラスが 巣を喰えば 白い子もあり 黒い子もあり
と、一首の歌ができ上がった。来客一同は、感心した。
客の中から、「ついでにもう一句」と注文が出た。兄マは立ち上がって、「小便して来てから」と、また、出て行った。
しばらくして、兄マは席へもどって来た。今度は何を云うのだろうと思っていると、「頭ぶらぶら、しずくたらたら」と兄マが云ったので、みんなは吹き出して、大笑いになった。
娘さんが、「また、どなたか、上の句をよんでくださいませんか」と云うのだが、だれもよむ人がいない。「それでは、私がよんでみましょう」と、娘さんは、次のような上の句よんだ。
水鳥が 羽うちそろい たつときは
あたまぶらぶら しずくたらたら
りっぱな歌によんだ娘さんに、いならぶ客も、感心しない者はいなかったという話だ。
後日談
この話は、夜学に通っていた時、蜷川先生が聞かせてくださった。その時に、先生は、「あんたたちも、かしこいお嫁さんをもらわれよ」と云われた。後ろの方から、「ダラな兄マの所へ、そんなかしこい嫁さが来てくれるかなあ」と云う声が聞えた。
語りべ 吉田摂津
「ふるさとのわらべうたとむかしばなし」 細入婦人学級編