第44話 夢を見て宝物を掘りに来た男 富山市岩稲
岩稲八幡社の境内にウルシ千ばい朱千ばい黄金の鶏一ツガイと軍用金が埋めて有るという言う伝説は、だれでも聞かされた話である。
隣の某が幾晩も夢に見た。岩稲八幡社の森の中、二俣谷の落合う所、三つ葉ウツギ千バイ、朱千バイ、黄金の鶏一ツガイ軍用金が埋めて有る。人に見られぬ様に掘りに行けと。
不思議な夢だと思うたが、遂に意を決して、暗い夜中に夢に見た宝掘りに鍬をかついでしのび足、夢に見た八幡の森へ百メートル位で、不意に横から婆さんがヒョッコリ。婆さんも男もビックリ。アレッ! ビックリした。
お前、早らと鍬かついでどこい行かっさると、声かけられて、しまったとしばらく言葉も出ない。「実はこんな夢を毎晩見たので、宝物を掘りに来たが、だれにも見られるなとのお告げであったのに、お前に見られて、おれはくやしい、おしいことした」と言うて、足の運びも重く、すごすごと戻ったと。
この八幡社も明治の末期に合社されて、森の大木も切られて屋敷の一部を残して、水田に開くことになり、部落の人が全部出て、土を掘る人、運ぶ人、高い所を掘る人に、黄金の鶏はまだ出ないか、軍用金はまだ見付からないぞ、盛土の下に埋めたのではなかろうか、いつの間にか、だれかがこっそり掘って行ったのだろうと、話はいろいろ。
只、五輪塔はたくさん出た。昭和二十八年に北陸電力神通川第二発電所建設に伴い、宮の水田も黄金の鶏も軍用金もダムの底に沈んで仕舞った。
語りべ 吉田摂津
「ふるさとのわらべうたとむかしばなし」 細入婦人学級編より