第45話 宝樹寺のげんま松   富山市東猪谷



 猪谷宝樹寺の境内に「げんま松」と呼ばれる老いた大木があります。(この寺の開山は永正二年で、願蓮社栄上人の創寺と伝えられています。)
 このお寺の二十五代上人(教誉)のとき、「源太郎」という小僧さんがいて、村の人たちは「源マ」と呼んで親しんでいました。
 ある日、夕刻から二、三軒の命日回向を勤めて、月夜の村道を急いでいました。やっと寺の灯が見えてきたので、ホッとしたとき、源マは不思議なものを見ました。それは、身の毛もよだつ大きな天狗でした。天狗は松の大枝から「源マ」と大喝一声。源マはその場で気を失って倒れて、数日後、哀れにも死んでしまいました。
 これが今も伝えられている「げんま松」の由来です。
 猪谷部落を見おろして、悠然とたたずんでいるこの黒松は、四季折々の風情と深い歴史を偲ばせてくれます。

「町報 おおさわの  昭和五十九年八月十五日 No.二二〇号」