第47話   塩出の池         富山市下夕



 大昔の白鳳元年(六七二)四月のこと、砺波地方に住んでいた弥鹿岐(みろき)という人が、大沢野の芦生に用事があって舟を急がせていた。
 たまたま塩村のあたりで、朝もやの中から白髪の気品高い老人が現れ、
 「お前をなかなかの人物とみこんで、仕事を頼みたい。このあたりの人々は塩がなくて困っている。ところが、このすぐ近くにきれいな泉が湧き、美しい池をつくっている。この池の水を煮つめれば、よい塩がとれ、人々も喜ぶのだが、大変な仕事なので、めったな人間に頼むわけにゆかんのじゃ」と言ったかと思うと、老人はハッと光を放ちながら南の空へ姿を消してしまった。
 弥鹿岐は、これは尊い神のご支持に違いないと、さっそく教わった通り、たけなす草をわけていくと、まもなく美しい池のふちにでた。弥鹿岐は、人々を集めて一部始終を話し、力を合わせて塩を焼いてみると、すばらしいよい塩がたくさんとれた。人々は喜んで、この池を「塩出の池」と名づけ、塩神である塩土老翁命をまつる多久比礼志神社をたてて、神の恩にむくいた。
  
「大沢野ものがたり」