第51話  赤池の大蛇       富山市東猪谷

 むかし、むかし、そのまた むかし。おおかわの おくの ほうに ちいさな むらが あって、 ひとびとは かわで さかなを とったり、 やまの はたけで やさいを つくったりして なかよく へいわに くらして おりました。
 むらの はずれに ごぜんやま という おおきな やまが あって、その やまには やまを まもっている きこりの せんにんが すんでいる といわれ、 むらの ひとたちは やまを とても たいせつにして ちかづきませんでした。



 その ごせんやまの なかほどにうつくしく すきとおった ぬまがあって、「ぬまは そこなしぬまで だいじゃが すんでいる」 といわれ、むらの ひとびとから おそれられて おりました。だけど まだだーれも だいじゃを みた ものが おりませんでした。
 その いけで きこりせんにんはいつも かおを あらったり、 たべものを あらったり していました。
 ところが その いけの まんなか ぐらいの ところで、 ときどきあかーい ちの かたまりのようなものが うかんでいるのです。



 「なんだろう?」 でも、 きこりせんにんは あまり きにしたことがありませんでした。
 ところが、 ある あさのこと、きこりせんにんが いつもより すこし はやく いけへ かおを あらいに いくと、 
 ズルルルル・・・・ゾゾゾゾゾ・・・・ ズルルルル・・・・ゾゾゾゾゾ・・・・
いけの すぐ そばから、 ぶきみな おとが きこえてきます。
 「なんじゃ? あれは?」
 きこりせんにんは ふしぎに おもって、こかげに かくれました。
 しばらくして そおーっとぞくと、
 「な・な・な・な・な・・・・なに?!」
 なんと いままでに みたこともない おおきな だいじゃが、 しかを くちに くわえ、 のみこんで しまおうと している ところでした。
  「ウアア!!」きこりせんにんがびっくりした はずみに、 おもわずこえが もれました。
 だいじゃは ギラリ!!と めをひからせて、きこりせんにんの ほうに ふりむきました。かおも ぬまも ちに そまって いました。
 それは、それは、みにくく、おそろしい すがたでした。すると、にわかに、 くろくもが わき、
 ピカ!! ピカ!! ピカ!! 
 ゴロロロローン!! 
 ゴンゴロロゴロゴロゴーン
 とつぜん てんを やぶるようなひかりと かみなりが なり、もりも はやしも まっくらに なりました。
 だいじゃは ちだらけの みにくい すがたを みられ、すがたを かくそうと、 あれくるいました。



 おおあめが、 みっか みばん、 ふりつづきました。
 やがて、その おおあめで、 ぬまの みずが あふれだし、あふれでた みずと いっしょに、 だいじゃは くちから ひを ふきながら、みにくい すがたを かくして、 さわだんの やまはだを えぐりながら、おおかわに むかって、 いっきに くだり はじめました。
 いわを くだき、 もりや きを なぎたおし、その おとは、
 ガラ ガラ ガラ ガラ ガラ ・・・・
 ドドド!! ドドド!! 
 ドドドーン!!
 ガ・ガ・ガ・ガ・・・・
 ガガガガーン
 あっちの やま、 こっちの やまと ひびきわたりました。
 だいじゃは あれくるいながら、おおかわに むかったのですが、さすがの だいじゃも つかれて しまい、ゆきさきを かえて、つつみを つくり、その なかに すがたを かくしました。
 に、さんにち たってから、しずまったように みえた やまはだが、ふたたび ゆれうごき、 つつみに ひそんでいた だいじゃが、ふたたび、 あらしを よんで、たにを ふかく けずりながら、すさまじい いきおいで、 いわや やまの きぎと ともに、おおかわに くだり、すがたが みえなくなりました。
 やがて、 あらしが しずまり、 ひがしの そらから あかるくなり、おひさまも でて、 ごぜんやまにもむらにも、もとのしずけさがもどりましたとさ。



 これは、赤池にまつわるお話です。現在でも「赤池の沼のふちに出る竹の子(スス竹)取りに気をとられて、一生懸命になって取っていると、底なし沼に足を取られるから、気を付けるように」と言い伝えられています。 
           
(坂上隆市さんのお話)

民話出展「大沢野下夕南部「野菊の会」紙芝居