第52話  不切山の神       富山市東猪谷



 昔、大沢野の下夕地区に不切山という山があり、木を切らないので、多くの大木が茂っていた。この村の百姓が、神通川に流れてきた木偶を拾い上げてきたところ、その晩、夢枕にたち、「わしは、山神じゃ。早く山へかえせ」というので、おどろいて不切山のナラの木の祠へおさめてきた。
 それから何年もたち、木がますます成長して、木偶をつつみかくしたため、どの木が山神の木かわからなくなった。その頃、ある木こりが一本の大木に斧をうちこむと、真っ赤な血が吹き出したので、驚いた人々が、この山の木を切らなくなったわけである。
 ところが、ある年のこと、ひとりの若者が人々のとめるのもきかず、この山から三本の木を切り取った。そのとたん、若者の母の顔がみにくくひきつり、口がゆがんだまま、どうしてもなおらなくなった。
 若者はいまさらのように、山神のたたりを恐れ、二十一日間お許しの祈りをささげ、満願の日に約束の杉苗を三本植えて帰ると、ふしぎに母の顔がもとの通りになっていたと。   
                                 
「大沢野ものがたり」