第60話 池の原の大蛇と怪力和尚 富山市寺家
むかし、むかし、船くらの寺家というところに、京の都から帝の命によって建てられた貴賓のあるそれはそれは大きなお寺がありました。
その頃大きなお寺は「帝立寺さま」と呼ばれ、何百とあるお寺の本山として栄えていました。
毎日お参りする人や旅人でにぎわい、たくさんのお店や宿屋もありました。
その寺家の山奥に大きな池がありました。その池にはむかしから大蛇が住んでいましたが、なにすることなくのんびりと日暮らしをしていました。
ところが、寺家がたくさんの人でさわがしくなったせいでしょうか、大蛇は怒って人を襲うようになりました。
人間の味を知った大蛇は寺家にあらわれ、人間だろうが馬だろうが、かたっぱしから食い散らすようになりました。
帝立寺の和尚さんは、力持ちでやさしい方でしたが、「村人や旅人の命とはかえられない」とお思いになり、ある時暴れている大蛇を見つけて、寺の本堂にある大きな鬼瓦を「よいしょ」と持ち上げ、大蛇の頭に命中させました。

もう片方の鬼瓦も「よいしょ」と持ち上げて、大蛇の尾に命中させました。
さすがの大蛇ものたうちまわり、やがて力がつき、ながながとその死体を横たえたのでした。
村人はこの力の強い和尚さんを「怪力和尚」と呼ぶようになりました。
大蛇の死がいは山奥の池に沈め、このようなことが再び起こらないようにしようと、ねんごろにとむらいました。
そして、この池を埋め立ててしまいました。それが今の池の原ということです。
帝立寺さまはそんなことがあってから帝龍寺と改名されました。
帝龍寺さまは長い間法灯が続いて、今の和尚さまは、七十五代目にあたられるそうです。
県の文化財指定の十一面千手観音さまや虚空藏菩薩(姉倉姫)さまがあります。
吉田律子「たずね歩いた民話 大沢野」