第6話  狐に化かされた山伏                   富山市蟹寺



 むかし、山伏がでかいホラ貝を持って、昼もまだ早いのに、蟹寺からとなりの加賀沢に向かって歩いて行ったと。
 とちゅう、大坪谷の懸橋にさしかかると、狐がひるねしとったがいやいとね。こりゃ少しおどしてやれと思うて、そっと狐の耳へ近づいてホラをプーと鳴らしたら、狐はびっくりして山へにげていったとお。
 そして山伏がちょっと一休みしておったところ、おっかしいことに、まだ日中みたいがに、くらく日が暮れかけてきたとお。 こりゃ、どんながか、よさるになったし、いごけんようになった。どこかで泊めてもらわんならん、と思うて、切込谷ちゅうところに行ったらまっくらになったと。
 そこは、村の石灰焼きする仕事場で、山伏はこりゃまあどこか泊まるところがないかと探しておったら、 一軒家があったと。
 「こんばんは」というと、家からおばあさんが出てきた。
 「ひとつ今夜は泊めてもらいたい。もう日が暮れていごけんようになったから」
 山伏が頼むと、
「泊まられてもええけど、わしのおじいさんが亡くなられて、棺に入れて座敷の仏さんの前に飾ってある。わしもここでちょっととなりに用に行きたいがで、それでもよければ泊まってくだはれ」とおばあさんがいうたと。
 「ええ、困っておるで泊めてくだはれ」といって山伏は家へ入ったと。
 おばあさんが外へ出ていって、山伏はいろりの縁で火をたいておったら、奥からミシッ、ミシッと音がしてくるがやと。
 おかしいおかしいと思っていたら、座敷の戸がすっと開いて、棺の中のおじいさんがひとりで出てきたちゅがやちゃ。それを見て山伏は「やっ」とびっくりして、いろりの縁でひっくり返ったと。
ひっくり返って、しばらくして気がつくと、コチコチと石を割る音が聞こえてきたと。
 


 それは石灰焼き場の人夫たちが仕事する音で、辺りはまた明るくなり日がさしてきたと。
 そこで山伏も「あんまり生きものにいたずらちゃできんもんだ」と思ったがや。      
 
「細入村史」からの再話