第71話  伝説 吉野籠の渡し婆の大蛇        富山市吉野

 吉野の籠の渡しの場所は現、神通第一ダムの下にあります。私が十才頃聞いた話です。
 今から百七十年位前のころでしょうか。村に三十五、六軒位の家があったじぶんのお話です。
 茂住の住人で柿下という人が、吉野銀山の鉱夫として吉野へ稼ぎに来て定住していました。
 柿下という姓で名前までわかりませんが川での漁猟が盛んな頃のある日、柿下さんが川へ鮎か鱒かわかりませんが、魚を捕りに行きました。
 篭の渡しの下の川原で流れを眺め漁場をどこにしようかと川上を見たり、川下を見たりして思索しておりました。
 虫の知らせか、フト上流の大岩の方を見るとアーラー恐ろしや、大きな大蛇がその岩に幾重にも巻きついて、こちらをにらみ、赤い舌をべらべらと出して形相物凄く今にも飛びかからんばかり、柿下さんは余りの恐ろしさに身体がこわばり、心臓が止まったかの様に動かれず、顔は青ざめてしまいました。後日その事を他人に語ったということです。



 本人は今迄、山や川で生き物を殺生したことのたたりであると悟り、今後一切、猟を止めることを決心したとのことです。
 現在吉野橋近くの六地蔵のそばにある舟型のお地蔵様は、本人が後世までもと、願いを込めて建立したと伝えられています。
 その後、柿下家の人が佛心厚く「六字名号塔」を建立されました。 苔むした側面に天保十二年巳亥五月當村施主柿下源五郎と古字が残されています。
         
笹川慶治 翻刻 平井一雄
郷土研究大沢野町「ふるさと下タ南部」野菊の会