第74話 馬鞍谷の大蛇 富山市船峅
馬鞍谷もやはり大沢野町の船峅地区である。昔、この付近の大沢の池のほとりに、地方きっての豪家があった。ところがある夜、ともに近隣の仇同志であった豪農の夜討ちを受けた。家の子郎党力をあわせてよく防ぎきったが、ついに破れさった。
そのときのことである。家伝来の家宝であった「馬の鞍」を大沢の池に投げ捨てた。すると一天にわかにかき曇り、天地鳴動して大暴風雨となりみるみるうちに池の水があふれ、堤が切れて大洪水となった。鞍はいつのまにか一匹の大蛇となり、渦巻く水とともに川から海へと流れ入ったと伝えられている。
のちこの谷は馬鞍谷といわれ、池だったところに水神として諏訪社が祀られた。なお毎年九月一日の祭りには、豊作を祈って地方まれな大草ずもうが行われるようになった。
「越中伝説集」