第76話 柿の実、なります、なります 富山市二松
むかし、お正月の頃にゃ、大雪になって、どの家もどの家も、すっぽりと雪の中に沈んでおったといね。
それでも、子どんたちは、みんな元気で、かんじきをはいて、雪をかきわけかきわけ、近くの山にかけのぼって、若木を折って、いっぱい束にして、藁でしばって担いできたもんだと。
その若木を焚きもんにして、小豆や餅米を長いことかかって、ぶつぶつと煮たもんだと。
どの家からもどの家からも、わら屋根のすきまから、白い煙が立ち上って、村の通りはこうばしいかざ(におい)で、いっぱいだったそうな。その頃山にはいっぱい珍しいかざのいい木があったと。
それから炊けた小豆ご飯をでかいと桶に詰めて、あんちゃんがそれを持って、その後から弟や妹が、ぞろぞろくっついて、うちのかいにょ(屋敷林)にある大きな柿の木の前に並んだと。
そしてあんちゃんが大きな声で叫んだがやと。
「おい、柿の木よ、実がなるかならんか、返事しろ。返事せにゃ、ぶっ切るぞ、ぶっ切るぞ」
そしたら、後ろにおった弟や妹たちは、いっせいに声をそろえて、
「はい、なります、なります」と、大声でまじめに答えたと。
あんちゃんは「よおしー」といって、腰にあった鉈で、柿の木の皮をはぐって、小豆ご飯をべったりくっつけてあげたがやと。
それから、どの柿の木にも、どの柿の木にも、小豆ご飯をどっさりあげたと。
それで、昔は、あまい、あまい、柿の実がどっさりなったと。
これでおしまい。
話者 西野久一 「船峅のむかしがたり」