第80話 首なしじぞう          富山市市場 

むかし、むかしのはなしや。
三方山にかこまれた平和な村があったと。そして、村のはずれに、草むらの中にかくれるようにたっているおじぞうさまがあったと。そのちかくに、長者どん夫婦がすんでいたと長者どん夫婦には、かわいいむすめさんがいたと。
 むすめは村いちばんのはたらきもので、朝早くからうら山にのぼり、そこにあるたくさんの薬草をとるのがしごとになっていたと。そして、病気でねているとしよりたちに、薬草をせんじてのませてあげたと。その薬草は、ふしぎなくらいよくきいたと。
 ある秋のはれた日のこと、むすめはふと足もとの谷間をみると、見たこともきいたこともない薬草があったと。ぐーんと手をのばしたら、やっととどいたと。
 そのとき、あしもとのどろがくずれはじめて、むすめのからだは、くらい谷そこにおちたと。やっとうちにたどりついたむすめのすがたをみた長者どんはびっくりしたと。むすめの首が横にかっくんとまがったきり、元にもどらなかったと。
 長者どんもむすめもそれを気にして、どっとやまいのとこについてしまったと。
 さあー、これをきいていちばんこまったのは、村の年よりたちだったと。あしたから、薬草が飲めなくなってしまう。そこで、だれがさそうともなく村はずれにあるおじぞうさまに、願をかけることになったと。うちでとれた野菜やくだものや、色のかわったろうそくなどを持って、雨の日も風の日も三七、二十一日間の願かけまいりがつづいたと。
 そして、満願の日、みんなはぞろぞろと長者どんの家にいったと。きっとむすめの首がなおっているだろうと思ってやってきたと。
 ところが、むすめの首はなおってなかったと。村のとしよりたちは、かんかんになっておこってしまったと。
「これだけお願いしても、ちょっとも、いうことをきいてくださらねえ。こんなおじぞうさまは、こうしてしまえ」というので、みんなでぐいぐいゆさぶったと。すると、おじそうさまが台座から「コロン」ところがりおちたひょうしに、首がゴロゴロとはなれてしまったと。
「わあー、おらあ、知らねえぞ」と、みんなはクモの子を散らすようににげたと。そのあとには、首のおちたおじそうさまだけが、さびしそうによこたわっていたと。



 そのばんのこと、ぐっすりねている長者どんのまくらもとでだれかが、「長者どん長者どん」とゆりおこしたと。はっとおもっておきてみると、おちた首をしっかりかかえたおじぞうさまが立っていたと。そして、こういったと。「長者どんよ、わしは首がないとこまるんじゃよ。だれかになおしてもらえんだろうか。わしの首をなおしてくれた者には、代々いしゃとして栄えるようにめんどうをみましょうぞ」といって、すーと消えてしまったと。
 長者どんは、よるのあけるのもまちきれず、村いちばんの正直ものといわれている茂平どんところへきてたのむと、きもちよくひきうけてくれたと。そして、おじぞうさまの首をなおすと、あれやふしぎや、むすめの首もぴょこんとなおってしまったと。
 村の人たちはほんとうによろこんだと。また、むすめのとってくる薬草がのめるからだと。そして、村の人たちは、「市場の薬師様」といったり「首なしじぞう様」といって、だいじにしていると。首をなおした茂平どんの子孫も、代々りっぱないしゃとして栄えていると。
                
 話 悟道伊三郎  最話 吉田律子       
 「たずねあるいた民話 大沢野」