第83話   弁山のいわれ        富山市大久保



 いまはその山の跡形もないが、上久保と中大久保の間は小高い丘であって、その東側に池があり、児童たちの遊びによい所であった。
 ある日一人の子守女が主人の幼児を連れて、ここで遊んでいる中に、山犬(狼)が忍び寄って幼児を食べようとした。子守女は気づいて大声で救いを求めたが、付近に人影はなく、といって幼児を棄て去ることも、ともに逃げることもできなかった。子守はとっさに自分の身体で幼児をかばい、自ら山犬の牙にかかって血みどろになった。後ほど、人たちは知って、あわてて助け寄った時には、子守はすでに息が絶えていたが、その腹の下にかぼうていた幼児は、しっかりと守りつづけられていた。
 人たちはその子守女のけなげな行をたたえて、この山を「女中山(ベイ山)」といった。いつかなまって「ベン山」となったが、ベイとは、ところでは女の子(主として女中のこと)をいう方言である。
                           
「大沢野町誌」