第84話   娘が竜になった観音さま       富山市野田

 すこしむかしのおはなし。
 野田にそれはやさしくて、思いやりのある娘さんがおられたと。
 うちのじいさまは、たいそうかわいがっておられたが、縁あって、水橋の大きな店屋へお嫁に行かれたと。
 もともと、からだが弱かったので、まもなく亡くなったと。
 うちのじいさまが、娘の供養にと、自分の田んぼのかたすみに、観音さまを建ててあげたと。
 ある日のこと、坂本の新聞配りのじいさんが、いつものように観音さまの前でお参りしとると、にわかに桜の木がゆれだしたと。
 ふっと、あおのいで見たら、なんと美しい色をした竜が、からだを丸くくねらせて、天高くのぼっていったといね。



 新聞配りのじいさんは、まるで天女のような竜に、夢でも見ているようで、開いた口がふさがらんまんま、どっと座り込んでしまったと。
 このようすを聞かれたうちのじいさまは、
 「それは、娘が竜になって、みんなを守ってくれているのだろう」
 と言って、うなづいておられたと。
 そんなことがあってから、
 「大病をわずらった時、助けていただいた」とか、
 「縁談がよくまとまった」とか、
 口から口へ伝わるようになったと。
 近所の人をはじめ、遠くからも参拝者が来られたと。じいさまの家にも、一歳になったばかりの孫が、角棒の磁石(長さ四センチ)を飲み込んでしまったが、五日目にお尻から出て来て助かったと。
 じいさまも、脳梗塞で入院したが、早く退院でき、その上、後遺症も出なかったと。
 このように、病気や事故の災難にあっても、助けてくださる観音様を建立された野田のじいさまは、
 「病気で苦しんでいる人や、災難にあった人や、心の安らぎを求めている人があれば、この幸せを分かち合いたいもの。信は力なり」と、語っておられたと。
 
話者 西田 勇
 「船峅のむかしがたり」