第85話  塩泉と多久比礼志神社     富山市大久保




 大久保地域の塩に鎮座する多久比礼志神社は、延喜式神名帳にもみえる古社である。大昔、天武天皇の白鳳年間(七世紀後半)、弥鹿岐という人が利波浦から船出して蘆生笹津についた時、見知らぬ一人の翁が現れて、「この磯の裏側に池がある。水は塩分を含んでいる。すぐ行って検べてみよ」というや、姿を消してしまった。
 弥鹿岐は今のは気のせいかと思いながら、磯の裏に出てみると、驚くなかれ清水が地上に湧き出ていた。 翁のいった池であった。水をすくって口にもっていくと非常に塩っ辛い。弥鹿岐は先の翁が唯人でなかつたことを知り、これはきっと神が自分に授けてくれた教えにちがいないと信じ、新しい社殿を作り祭神と崇めたのであった。後の塩村という字も、ここに由来する。
                              
「越中志微・越中伝説集」