第90話 百足ガ淵 富山市岩木
大沢野町の岩木の上に百足ガ淵という淵があった。神通川が底深く、うずを巻いて大変気味の悪いところであった。
この淵に十メートルもあるむかでの精が棲み、夏の日射しを好み、しばしば川原へはいあがって日なたぼっこをしていた。そんな時、真っ黒に光る背中と真っ赤な腹が鎧のように輝いているのがよく見えた。水に沈む時は神通川が黒光に光ったという。
ある年のこと、神通村きっての水練の達人河原覚浄という人が、この淵に綱を投げたが、どうひいても綱があがらなくなった。
さては例のむかでの化け物だなと思い、水潜りしてでも見参するぞと広言すると、たちまち一・八メートルほど舟を盛り上げた。覚浄は負けずに「やい、やい怪物、卑怯であろう。姿を見せい」と怒鳴った。すると淵の東の崖下に天女のように美しい女が現れたので、覚浄はなんと優しい化け物もいるものかと感心して、思わず舟端を叩いて誉めそやすと、女の姿がすっーと消えて、綱はスルスルと上ったという。
屑竜
「伝説とやま」