第92話  稲代のともしび    富山市稲代



 むかし、大沢野は葦や草の生い茂った大きな野原であった。
 その頃は道といえばわずかに稲代から八尾に通じる田んぼ道があるばかり。そのごつごつした道は高く高く盛られ、人々はひだおろしの強い風が吹いてくると、道のかげにかくれて、しばし時を待ったものだ。
 その道の近くにぽつんぽつんと、あらかべにむしろをつるした家が建っておった。家の前に灯されたたったひとつのランプは、家の中も照らし、外も照らした。人々は夜も昼もなく働き続けたものだよ。
 その頃、稲代の南に代官山があった。代官山のちょうど真ん中に大きなほら穴があって、中にはむしろがしかれ、鉄格子がはめられていた。しかも堀で囲んであった。
 そこは大沢野を開拓するために、準備された囚人たちの宿舎だったとか。これはおじいさんの子どもの頃の話だよ。
              
話 小幡太一                
再話 吉田律子
「たずねあるいた民話 大沢野」