第94話  名伯楽         富山市西大沢

 むかし、ある年の正月のこと、富山藩主が自分の愛馬に正月の餅を与えたところが、馬は翌日から食が細り、元気なく日に日に衰えるばかりであった。まさか餅を食わせたともいえず、藩内の伯楽を召し出し見立てさせたが、皆首をかしげるばかりであった。尋ね尋ねて天下にも有名なといわれる滑川の某伯楽に診せた。伯楽が思案の末申すには、「恐れながら私にも相分かり申さず、聞くところによりますと何でも笹津近在に山本某という伯楽、この者に見立てさせては・・・」という。



 藩公さっそく早馬を立て召し出された。それは二月一日のことである。山本という伯楽は馬の腹を二、三度なで、「殿、これは餅気のものを与えられたと見ますが・・・・」と即座にいい当てた。
 殿はひと膝乗り出し「していかなる薬でこれを」「はい手易いことでございます。明日といわず今日から、一食にコンニャク十枚あて、一日三回与えますれば・・・・」と申し上げた。
 さっそく富山中の店々を買い集めたが、わずか五枚であったので、金沢城下まで毎日早馬を立ててコンニャク買い役が始まった。二、三日頃から回復が目に見えてきた。そして七日目には元のようになってしまった。藩公はことのほかのお悦び、褒美をとらすと申され、西大沢付近に数万坪の土地を与えられた。伯楽は大邸宅を構えて「様」付けで呼ばれるようになったという。
                                   
「大沢野町誌」