第96話  下伏の大蛇と蛇骨      富山市黒瀬谷



 神通川の対岸黒瀬谷地区の下伏部落に田池というところがある。昔ここは湖で周囲は二キロメートルぐらいあった。そこは大蛇が棲んでいて、つねに濃霧を吐いて付近は昼なお暗かった。
 永禄二年(一五五九)の秋、ここからほど近い城生(八尾杉原)の城主に斉藤長門守がいた。家来に大蛇の出現をたしかめさせて、その翌春、弓の名手の奥野というさむらいに退治するよう命じた。奥野は勇躍して下伏におもむき、大蛇の出現を待ってみごとに射殺してしまった。同時に濃霧も四散して、それ以来すっかり明るくなった。長門守は大いにその功を賞した。
 その後富山の城主神保氏張、佐々成政が兵を合わせて城生城を攻めたとき、怪しい雲が城中にたちこめて守るすべがなく、間もなく落城した。これはひとえに大蛇を討ったたたりだといいはやされた。
 その後この池はかれて田になった。いまもその真ん中に深い深い溜まりが残されている。なおこの付近一帯に貝の化石が散布する。これを付近の人たちは、そのとき退治された大蛇の骨だと信じていた。蛇骨といってこれを粉末にして煎じて飲むと、オコリや淋痛に特効があるといわれていた。
 またこの説話から城生はひとつに蛇尾と書かれたこともあった。
                                   
「越中伝説集」