神通峡の民話・伝説シリーズ   その11

 むかし、山伏(やまぶし)がでかいホラ貝を持って、昼もまだ早いのに、蟹寺(かにでら)からとなりの加賀沢(かがさわ)に向かって歩いて行ったと。

 とちゅう、大坪谷(おおつぼだに)のカケハシ(懸橋)にさしかかると、狐(きつね)がひるねしとったがいやいとね。こりゃ少しおどしてやれと思うて、そっと狐の耳へ近づいてホラをプーと鳴らしたら、狐はびっくりして山へにげていったとお。

  そして山伏がちょっと一休みしておったところ、おっかしいことに、まだ日中みたいがに、くらく日が暮(く)れかけてきたとお。 

 こりゃ、どんながか、よさる(夜)になったし、いごけん(動けん)ようになった。どこかで泊めてもらわんならん、と思うて、切込谷ちゅうところに行ったらまっくらになったと。

 そこは、村の石灰焼き(せっかいやき)をする仕事場(しごとば)で、山伏はこりゃまあどこか泊まるところがないかとさがしておったら、一軒家(いっけんや)があったと。

 「こんばんは」というと、家からおばあさんが出てきた。
 「ひとつ今夜は泊(と)めてもらいたい。もう日が暮れていごけんようになったから」
山伏がたのむと、

 「泊まられてもええけど、わしのおじいさんが亡くなられて、棺(かん)に入れて座敷(ざしき)の仏(ほとけ)さんの前にかざってある。わしもここでちょっととなりに用に行きたいがで、それでもよければ泊まってくだはれ」と、おばあさんがいうたと。
 「ええ、こまっておるで泊めてくだはれ」といって、山伏は家へ入ったと。

 おばあさんが外へ出ていって、山伏はいろりの縁(ふち)で火をたいておったら、奥からミシッ、ミシッと音がしてくるがやと。

 おかしいおかしいと思っていたら、座敷の戸がすっと開いて、棺の中のおじいさんがひとりで出てきたちゅがやちゃ。それを見て山伏は「やっ」とびっくりして、いろりの縁(ふち)でひっくり返ったと。

 ひっくり返って、しばらくして気がつくと、コチコチと石をわる音が聞こえてきたと。それは石灰焼き場の人夫(にんぷ)たちが仕事する音で、辺りはまた明るくなり日がさしてきたと。そこで山伏も「あんまり生きものにいたずらちゃできんもんだ」と思ったがやと。

            民話出典「細入村史」からの再話



         
江戸時代のころの加賀沢

※明治四十年ころの蟹寺では石灰岩をくだき、それを焼いて作られる石灰の生産がさかんだった。当時は田畑の間接肥料などとして貴重なものであった。    
                   「細入村史より」

狐に化かされた山伏(蟹寺・加賀沢)