![]() bh ン j ![]() マリンブルーに染まりたい 2003年12月 月めくりのカレンダーが最後の一枚になったときから、昨日と変わらぬ一日は、追いかけられるように 心ぜわしい思いで始まるのだが、「来年の新年は家族そろってハワイで迎えようか」 とT市に住む息子 からきりだされるまで かって自分から提案したこの計画を殆ど忘れかけていた。 海外旅行…何度誘われても私には重いテーマだ。英語はからきしダメ、団体行動についてゆける自 信もないし、 断る口実はその都度何とか設けてはいるものの、実はひとりが好き、自由が好き、すべて は外出嫌いの自分の性格のなせる業、とはよく承知して、奥底でうごめく誘惑を押さえている。 ただ。暖かい南の島の、海を一望できるホテルのバルコニーで、子供たちが遊ぶ白いビーチを我が 物に眺めながら、気が向けばスケッチなど…こんな旅行なら話は別。でも、これが旅行といえる? そうじゃないからこそ。 ゆったり流れる贅沢な時間…素敵ね。 これならと提案したのだが、それはも う5年、7年、いえ、もっともっと前の話。 ここ数年、ひとりで静かな元旦を過ごす習慣が身についてしまっている。正直言ってあまり心は弾まな かった。嫌な予感がした。スカイブルーの色に染まって、空と溶け合う時間と空間…ではなく、レンタカ ーを走らせて、10日分のオプションを消化するくらいキツい日程だし、何よりも自分を含む家族全員の 健康状態はどう? 右側通行で運転は大丈夫?言葉の違い、習慣の違い、何もかも違うんだから。 でも口には出さなかった。老化現象だねって、おでこをポン、で片付くにきまってる。今まで見たことも なかった母や姉や 夫まで夢に出てきて、不安ばかりがひとり勝手にふくれあがってゆく。 ![]() ![]() ホテルの窓から 12月30日 残った仕事を何とかこなして、殆ど予備知識も持たぬまま、機中の人となる。 そのころから、自分を包み込むメランコリーの正体が、おぼろに分りかけていた。旅の開放感は少しも わかない。ついこの間までまとわりついて離れなかった二人の孫、6年生の太郎は見上げるるほど大き くなって、私の荷物など持ってくれるし、3年生の次郎も隣に座って何かと話しかけて来る。 三世代の同行ともなれば、この私だっていいおばあちゃんでいなくては。それが旅の開放感に歯止め をかけているらしい。一番大切な家族たち。でも我ながらなんとも解決しがたい、このほのかにやっかい な感情を、どう処分していいのやら。 あれこれ思いをめぐらすうち、7時間のフライトは終わりを告げて、白み始めたホノルルの空港に降 り立つ。甘い香りが漂っている。どこを見ても優しくおいでおいでをしているようなココナツ椰子のシル エット。手続きを済ましシャトルバスで市内アロハタワーへ。歓迎のフラダンスと滞在中の説明を受けて 自由行動に移るまで3時間、レンタカーを借りるのに1時間、待ちの態勢で半日は過ぎていった。 ファーストバンクに日本人のスタッフがいて、思いがけず予定外のビジネスを第一番にこなしたときは 幸先よしとばかり喜んだのだったが… 私たちのレンタカーは、ともすれば左に左に片寄りながらも、とにかくハイウェイを走って、こどもたち のリクエスト、ウオーターアドベンチャーパークに向かう。あいた席に倒れこんだとき、胸は苦しい、頭は 重い、脚も腰もと三重苦だか四重苦だか。疲れ知らずの子供たちは水着に着替えて、ボルケーノエク スプレスとか何とか奇声をあげて遊びまわり、ママがビデオ片手に懸命に追っかける。 息子はときたら背もたれもない幅30センチばかりの長いすに、横たわるなり眠りこんでしまったらしい。 身動きすれば転げ落ちそう。荷物だって目を離したらどこかに持っていかれるかも。ここでも世代最長 ゆえの損な役まわり。というより実はもう動けない。動きたくもなかった。なにしろ朝家を出てもう23時間 ぶっとうしなんだから。 知らない道だし、今日は明るいうちに帰ろうね。それでいながら、ホテルにたどり着いたのは7時ごろ。 チェックに手間どり、車の駐車に手間どり、夕食はただ明日の活動のためにのみ流しこみ、入浴を済 ませ、ああこれで、やっと休める、というところで声がかかった 「おばあちゃん、トランプして遊ぼうよ!」 夜。おばあちゃんの部屋で寝たい、僕が先だ、と太郎次郎がモメだした。仕方がないからツインの部 屋にエキストラベッドを置いて、三人で休むことにする。T型に置かれた小さめの低いベッドは誰が使 う? モメない先にさっさともぐりこんでから、私は考えた。いまどきの男の子たちに、レデイファースト の何たるかをきっちり教えこまなくては。 夜中、どさりと落ちてきた大きな物体がある。明日に備えて少し睡眠薬を飲んでいたから手探りする と、その物体は器用に私の横にはまり込んでねむりこけている太郎だった。翌朝目がさめたとき、太郎 はちゃんと自分のベッドに這いあがって、丸くなって眠っていた。 日本のものよりずっと大きくて高い べッドのひとつを占領していた次郎も、二度ほどじゅうたんに転げ落ちたから、つぎの夜からエキストラ ベッドを離れなくなっていた。 天国への階段ハナウマベイ ![]() ![]() やしの木陰で ハナウマ湾 数あるビーチの中でも景観すぐれたハナウマ・ベィは手厚い環境保護で護られている。入場者も制 限されていて、朝7時には出発しないと間にあわない。でも朝時間通りに起きたのは私だけ。子供たち は勿論、当日のドライバーもナビゲーターも、とてもベッドから離れることが出来なかったのだ。 無理もない。ハイウエィを走るふたりのやり取りは、後ろの座席で聞いているだけで切なくなってくる。 つぎつぎにせまる英字の標識、あっという間もなく通り過ぎる車 地図と前方と、せわしなく視線を泳がせるナビゲーター 意識しないと自然に左へ傾くハンドル、不安と安堵が交代に押し寄せて混沌となる会話… レンタカーの魅力は、ひょっとしたらこの事かしら。 行程表では(海中散歩を楽しんだあと、ダイヤモンドヘッドへ) となっている。逆のほうが効率的だ が、やはり早起きの自信がなかったらしい。高岡二上山と同じくらいの山だけど、(最後の30分、暗い トンネルの急な階段、ひとあせ) (余力があれば) と来るから、答えはもう出ている。 山頂の岩肌の方解石を、ダイヤモンドと見間違え呼ばれるようになった有名な山。日本画の地塗り に方解石を多用する私には、ちょっと興味が湧くのだけれど、この山の頂上からワイキキビーチを一 望する楽しみと共に、いつかまた、機会があればね。内心ホッとするものもあって、車の窓から別れを 惜しんんだ。 幸いなことに、ハナウマ・ベイの駐車場には空きがあったが、入口には長い行列が出来ている。50 人くらいずつ一部屋に入り、スライドを見ながら説明を受け、ようやくビーチへの坂道にさしかかる。こ の200メートルばかりの坂道は、天国の入口のように心が弾む道だ。 水着、短パン、とりどりのTシャツ、はだし、サンダル、サングラスにソフトクリームで、のんびりのんびり 散歩する横を、10人くらいの客を乗せたトロッコバスが、これもまたのんびりとゆききする。歩く人と乗 客が交わしているアッケラカンの会話。 左手に広がる湾が美しい。遠浅で、さんご礁と透きとおる岩床と、潮の香と、甘い花の香。 若い日本人の女性グループは、スキューバスーツに身を固め、勇んで海中探検に。かなり高齢と 思える人がやしの葉陰で読書にふけっている。子供たちとスキンシップを楽しむ中年家族もどこか大 らかだ。 思わず私もかばんの底に手を伸ばした。活躍の場はあるだろうか、こノスケッチブック。 ![]() ![]() この日、朝から曇り空で、そのころからポツリポツリと雨が落ちてきた。太郎が海からあがり、シュノー ケルもあしびれも投げ出して、パンツ小脇にシャワー室へ駆けこんだ。寒いねとくちびるが震えてる。 寝そべって、海をながめてすけっちどころではなくなった。着替えを済まして、みながおなかを満た すのに集中しだすころになっても、次郎だけは遊びに夢中。どうやら自分も熱帯魚になった積りでい るらしい。 この次郎ときたら、好奇心のかたまりで、負けず嫌いで、ものおじすることを知らない。ためしに難 問を持ちかけると、あどけなさの残る丸顔は、たちまちサムライのようなこわもてに変貌する。ときには 隈取りで彩られた歌舞伎役者の面構えが思い浮かぶ。性能はよいけれど、ハンドルを誤るとどこへ 激突するかわからない外車のような突貫ボーイだ。無口で級友からも信頼の厚い太郎と比べ、下手な ことを言えば、相手かまわずスッパリ切り捨てるから、時々仲間から敬遠されてしょげ返っている、面白 いキャラクターだ。 市内を走るトロリーバスに乗ったときの彼が面白い。 うろうろしているお兄ちゃんを尻目に、さっさと運転席に近いフロントの座席に陣どって、見知らぬ街 への好奇心を目いっぱい満たしているから、ひげ面の人のよさそうなドライバーが、マイク越しに話し かけてくるのだ。これも観光客へのサービスかもしれない。中間に、これもまた物好きな客のひとりが 通訳をかってでて、日米チャンポンのトンチンカン問答が、そのまま車中に中継され、客の笑いを誘 う。(通訳だって怪しいものだ) 太ったひげの中年と、マニュアル片手の日本の青年と、やんちゃな boy の日米交流。 たのしい旅のひとコマだ。 次郎は車から降りた瞬間には、もう次の目標をを求めて触角を動めかしている。 元日のノースの空は夢のなか ![]() ![]() ![]() 雨のデリンガム飛行場
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